朝の通勤ラッシュで混み合う近鉄奈良線快
速急行。鶴橋で乗り換えていつも目にする
優先座席に陣取る上品なご婦人。
光沢のある濃いシルバーのマニュキュアした付
け爪、それなりの時間を掛けてきたと思われる
メーキャップ、服装も高級そうなエグゼクティブ
スーツ。
高級住宅街がある学園前から乗り込んで来
たのではと思われるそのお方がなんと朝刊を
縦に半分折り曲げ、広げしながら読んでいる
風景、なんと新聞は風前の灯である左系の
毎日。今はスマホが咲き乱れてもも新聞は皆
無、摩訶不思議な風景。
昭和に呼び戻されて、華麗なる一族に出て
いる女優を見ているようである。
関西では高級路線は近鉄ではない、財界人
やミュージシャンが住む、芦屋六麓荘を従える
阪急電車である。
阪急百貨店うめだ本店の沢山の人々が行き
交うコンコースは天井も高く、ここは元駅舎で
面影を忍べる。
本社への課題を一杯抱えながら下向きがちに
歩いていても天井からのイルミネーションが項
垂(うなだ)れた頭(こうべ)を起こし、季節折々
のセンスのいい物語溢れたショーウインドウにも
目を奪われ童心に還らせていただき、いつも元
気を貰っているプロムナード。
コンコースから動く歩道に乗れば阪急梅田駅
のエスカレータへ、左に曲がれば本社へ。横を
すり抜けた先のガード下には活気あふれた庶
民の酒場が手招きをする。
先週、飲み締めを求めて吸い込まれるように
古びた居酒屋のドアに手を掛けた。 トイレボ
ールの昔懐かしい香りが歓迎してくれる。
トイレは和式で塩ビパイプがむき出しで所々
ガムテープ補修してあるがピカピカで綺麗。
綺麗にクリーニングされたピンクのカーディガン
に白いワンピース、背中には衣服に貼るホカ
ロン、古希は超えているだろう言葉少なく黙
々と料理する女将。
年季の入ったコの字カウンターには百合の生
花が飾られているが、土間には所狭しとあり
とあらゆる調味料が散在している。
しっくりこない戸惑いの時空間に嵌り込んだ
様だ。
「アルバイトいないから出すもの遅いですよ」
「問題ありません」と鸚鵡(おうむ)返し。
かめ壷仕込みの芋焼酎「枕崎」ロックがステ
ンレス製真空断熱構造タンブラーに注がれ
チェイサーと共に間髪入れずやって来た。
口当たり爽やかであるが芋臭い、少し甘みも
感じる。突き出しはイワシの生姜煮と厚揚げ
の煮物。締めの梅雑炊オーダ。
「牡蛎入れていいですか」「?、あっ、はい」
凄い!今から※洗って、炊飯器。大きな土
鍋に炊き立てを移し替えて、ぐつぐつ。
ふたを開ければ、
「?、これ梅雑炊?、なんでやねん!」
一人前660円だが、2人前以上はある、ぷり
ぷりの牡蛎6個がなんとグリコのおまけ。
出張先の見知らぬ土地での独り酒には落ち
着いて地元飯が味わえるションベン横丁がい
い、女将営んでいる店は尚気分がいい。
一度行ったことがある人からの情報で怖いもの
見たさでここのドアに手を掛けたのだった。
「まぐろ頼むと柵で出てきて、その横に頼んでい
ないきずしがおまけで半身付きで、帰りにぽん
かんや御菓子のお土産ももらえる」
「中さんだったら、こんなもん頼んでないと切れ
るかもしれませんネ」
心穏やかに尋ねてくださいと言われていた。
入ったときはしまった感があったがこの歪んだ空
間に身を投じ、独特の空気に飲み込まれたて
行く内に、落ち着くかもしれんと心変わり。
ビジネス街で飲み食いしていても中々OFFで
きないがここは出来る。
食べログ評価が1.5~5.0と分かれるだけはある。
商いと人生を積み重ねた女性は男より魅力的
でミステリー、幼き頃がほろ酔いと共に蘇る。